人手不足対策としての技能承継を現場に定着させる運用のポイント

日本の中小製造工場でベテラン作業者がスマートフォンで作業工程を撮影し、若手社員がタブレットで手順を確認している様子

中小製造業の現場では、「人が採れない」「若手が定着しない」という声とあわせて、「今いるベテラン社員が辞めたら、この作業が回らなくなる」という不安を抱える企業が少なくありません。人手不足そのものを短期間で解消することは難しくても、限られた人数で作業を回せる状態をつくることはできます。

その第一歩として、技能承継や多能工化に取り組み始める企業は増えています。ところが、教育担当者を決めて資料を作ってみたものの、しばらくすると更新されなくなり、結局は「教える人によって内容が違う」という以前の状態に戻ってしまうケースもよく見られます。

採用がすぐに進まない状況であっても、今いる人員の技能を見える化し、共有できる状態にしておけば、欠員や異動が発生したときの影響を小さくすることができます。逆に、技能が特定の個人に偏ったままであれば、その人が休んだり退職したりするたびに、現場は大きな負担を抱えることになります。

この記事では、人手不足への対応として始めた技能承継や多能工化の取り組みを、一時的なプロジェクトで終わらせず、現場の運用として定着させていくための考え方を整理します。

目次

人手不足対策として技能承継・多能工化に取り組む企業が増えている

「ベテラン社員にしか分からない作業がある」「教える人によって言い方が違い、品質もばらつく」という悩みは、製造現場で広く聞かれる課題です。新しい人を採用できたとしても、教える側の時間が足りなければ、育成のスピードは上がりません。

こうした状況を受けて、技能をできるだけ言葉や資料に残し、特定の人に依存しない体制をつくろうとする取り組みが広がっています。多能工化もその一つで、一人が複数の工程を担当できるようにすることで、欠員が出た際にも生産を止めにくくする狙いがあります。

ただし、技能承継や多能工化は「一度取り組めば終わり」というものではありません。作業内容や設備は変わっていきますし、教える対象となる新人も入れ替わります。取り組みを始めることよりも、続けられる形にすることの方が、実務上は難しいというのが現場の実感に近いでしょう。

また、多能工化を進めるうえでは、誰がどの工程をどの程度習得しているのかを、担当者の頭の中だけで管理していると、育成の優先順位を判断しにくくなります。技能の状況を一覧できる形にしておくことは、次に誰を、どの工程で育成するかを考えるための土台にもなります。

技能承継の取り組みが定着しにくい理由

多くの現場で最初に行われるのは、ベテラン社員へのヒアリングをもとにした手順書やマニュアルの作成です。しかし、この方法にはいくつかの負担が伴います。

まず、ヒアリングや文書化には時間がかかります。ベテラン社員は日々の生産業務も担っているため、まとまった時間を確保しづらく、後回しになりやすい作業です。また、文字と静止画だけで手順を説明しようとすると、実際の動きやコツが伝わりにくく、結局は現場でのOJTに頼らざるを得ない場面も出てきます。

さらに、一度作成した手順書は、工程や設備の変更にあわせて更新する必要があります。しかし、更新作業自体にも手間がかかるため、いつの間にか実際の作業と資料の内容がずれてしまい、「あの資料は古いから」と使われなくなっていくことも珍しくありません。

こうした負担が積み重なると、担当者の熱意だけでは取り組みを継続しにくくなります。特に人手が限られている現場では、教育担当を専任で置くこと自体が難しく、通常業務と兼務しながら進めることになりがちです。技能承継を一時的な作業ではなく運用として定着させるには、記録や更新にかかる負担そのものを小さくする工夫が必要になります。

まずは自社の教育体制がどこまで整理されているかを確認することから始めるのも一つの方法です。

作業マニュアルチェックシートを確認する

自社にどのような教育資料が残っているか、更新されているかを整理するためのチェックシートです。属人化防止や技能承継の状況を振り返る材料としてご活用いただけます。

記録の負担を減らし、”仕組み”として残す考え方

文書化の負担を減らす方法の一つとして、作業の様子を動画で残すという考え方があります。スマートフォンで作業を撮影するだけであれば、ベテラン社員に文章を書いてもらう必要がなく、現場の負担を大きく増やさずに記録を残せます。

動画をもとにAIが作業の流れや手順を整理し、画像付きの手順書として自動作成する仕組みを使えば、担当者が一からまとめる作業そのものを減らすことができます。撮影する側は「作業をいつも通り行うだけ」でよく、30分を超える長い動画や、説明音声のない動画にも対応できる仕組みであれば、忙しい現場でも記録のハードルを下げやすくなります。

このような仕組みを使う目的は、資料を一度作って終わりにすることではありません。作業内容が変わるたびに動画を撮り直すだけで手順書を更新できる状態をつくり、記録を”続けられる形”にしておくことにあります。更新の手間が小さければ、担当者が変わったとしても、取り組み自体が途切れにくくなります。

出来上がった手順書をその場で手直しできる仕組みであれば、AIが整理した内容が実際の作業と少しずれていた場合にも、現場の感覚に合わせて調整しやすくなります。完璧な資料を一度で作ろうとするのではなく、まず記録し、使いながら整えていくという発想の方が、忙しい現場には合っているといえます。

作成した手順書をPDFとして出力し、会社ごとの様式に合わせられる仕組みであれば、既存の教育資料と併用することもできます。すべてを一度に置き換える必要はなく、負担の大きい工程や、属人化が進んでいる工程から少しずつ記録の対象を広げていくという進め方も現実的な選択肢です。

よくある疑問に答える

技能承継の取り組みを進めようとする担当者からは、共通した疑問が寄せられます。ここでは代表的な三つの疑問について整理します。

こうした疑問は、いずれも「取り組みを始めたいが、現場の負担を増やしたくない」という考えから生まれるものです。一つずつ解消していくことで、取り組みを始めるハードルを下げることができます。

教える人手や時間が足りなくても始められるのか

教育担当者を新たに配置する余裕がない、という声は多くの現場で聞かれます。動画による記録であれば、ベテラン社員がいつも通り作業をする様子を撮影するだけで済むため、教えるための特別な時間を新たに確保する必要はありません。撮影自体もスマートフォンで行えるため、特別な機材や準備を必要としない点も、始めやすさにつながります。

外国人材への教育にも対応できるか

言葉の壁がある現場では、身振り手振りやその場しのぎの説明になりがちで、紙の手順書も日本語のままというケースが多く見られます。作成した手順書を多言語に翻訳できる仕組みを使えば、同じ内容を外国人材にも正確に伝えやすくなり、伝わったかどうかを確認しにくいという課題にも対応しやすくなります。

撮影した動画や手順書のデータは社外に出ないのか

現場の作業には機密情報が含まれる場合もあり、データの取り扱いを不安に感じる担当者も少なくありません。動画や作成した手順書を、クラウドERPの環境内でのみ処理し、外部のAIサービスへの送信や学習データとしての利用を行わない仕組みであれば、機密性の高い作業についても検討しやすくなります。必要に応じて秘密保持契約を締結できる体制があるかどうかも、確認しておきたいポイントです。

こうした疑問に対応できる仕組みがあることを知っておくと、技能承継への取り組みを始める際の心理的なハードルは下がりやすくなります。

AI作業マニュアルの詳細を見る

動画からAIが作業手順書を自動作成する仕組みの機能や導入方法について、具体的にご紹介しています。自社の作業に当てはめて検討する際の参考にご覧ください。

技能承継・多能工化の取り組みを”運用”として続けるために

技能承継の取り組みを一時的なもので終わらせないためには、いくつかの視点を持っておくことが役立ちます。

一つは、更新のタイミングをあらかじめ決めておくことです。工程が変わったとき、新しい設備を導入したときなど、更新のきっかけを明確にしておくことで、「気づいたら古いままだった」という状態を避けやすくなります。特定の担当者に更新作業を任せきりにせず、複数人で確認できる体制にしておくと、担当者の異動や退職があっても取り組みが止まりにくくなります。

もう一つは、記録を教育だけに使うのではなく、作業改善の材料としても活用する視点です。作業時間や動きのデータを分析できる仕組みを併用すれば、標準的な作業者と新人との違いを見える化でき、どこに時間がかかっているのか、どこにムダがあるのかを把握しやすくなります。技能承継と現場改善を切り離さずにつなげておくことで、取り組みの意味づけがはっきりし、現場の協力も得やすくなります。

多能工化についても同様です。一人が複数の工程を担当できるようにするには、各工程の手順が誰にでも分かる形で残っていることが前提になります。技能承継の仕組みを整えることは、多能工化を進めるための土台づくりでもあります。

さらに、取り組みを社内に定着させるうえでは、経営層や上司が現場の状況を把握しやすい状態にしておくことも欠かせません。誰の技能承継が進んでいて、どこが手薄なのかが見える化されていれば、人員配置や教育の優先順位を判断する材料にもなり、現場の担当者だけに負担が偏ることを防ぎやすくなります。

こうした視点を持って取り組みを続けていくことで、人手不足という避けにくい状況のなかでも、特定の人に頼らずに現場を回せる体制へと少しずつ近づいていきます。一度に大きな変化を求めるのではなく、続けられる仕組みを整えることが、結果として最も確実な人手不足対策になります。

まとめ

人手不足は、短期間で解決できる課題ではありません。だからこそ、限られた人数でも現場を回せる体制を、少しずつでも整えていくことが重要になります。技能承継や多能工化への取り組みは、その中心となる取り組みの一つです。

大切なのは、資料を一度作ることではなく、記録や更新にかかる負担を減らし、無理なく続けられる仕組みとして運用していくことです。動画とAIを活用した記録の方法は、その負担を軽減する選択肢の一つになります。完璧な仕組みを最初から目指す必要はなく、まずは一つの工程から記録を始め、無理のない範囲で対象を広げていくことでも、取り組みは十分に定着していきます。

技能承継や多能工化への取り組みは、一度で完成させようとすると負担が大きく感じられますが、小さく始めて少しずつ改善していくものだと捉えれば、無理なく続けやすくなります。自社の現状に合わせて、できるところから取り組みを見直していくことが、結果的に定着への近道になります。

自社の技能承継の取り組みが、どの段階でつまずきやすいのかを整理したい場合は、現状を一緒に確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。

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